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相続税の連帯納付義務|兄弟が払わないと自分に通知書が来る盲点と回避策

2026年05月18日
税務

電卓と帳簿の俺瞰(相続税計算のイメージ)

複数の相続人で相続税を分担して納付したあと、何年か経ってから税務署から「連帯納付の通知書」が届いて慌てるケースが実務でしばしばあります。相続税には「他の相続人が払わない場合に、自分が代わりに払う義務」があります。これを連帯納付義務といい、相続税法34条1項に定められています。仕組みを知らないと、自分の納税は終わったつもりでも、5年近くにわたって税務署からの請求リスクを抱え続けることになります。

弊社では相続税申告の受任時に、この連帯納付義務を「事前に知っておいていただきたい注意点」のひとつとして、必ずお客様にお伝えしています。申告そのものは順調に終わっても、後日に他の相続人の滞納が原因で通知書が届くと、心理的な負担も連絡調整の手間も大きいためです。

1. 相続税の連帯納付義務とは

相続税の連帯納付義務は、同じ被相続人から相続した相続人全員が、自分が取得した財産の価額を限度に、他の相続人の相続税についても連帯して納付する義務です(相続税法34条1項、e-Gov 相続税法)。連帯保証人に似た仕組みで、相続人の誰かが期限内に納税しなかった場合、税務署は他の相続人にその不足分を請求できます。

実務で問題になりやすいのは次の3つの場面です。

第一に、相続人同士の経済格差が大きい場合。自営業の兄が事業不振で納税資金が用意できず、サラリーマンの弟へ通知が回るケース。第二に、不仲・疎遠で相互の納税状況がわからない場合。長年連絡を取っていない兄弟姉妹が共同相続人になり、相手の納税が完了しているか確認できない。第三に、認知症・行方不明の相続人がいる場合。本人の判断能力に問題があり、納税手続きが滞る。

連帯納付義務は、相続税の申告書を提出した時点で自動的に発生します。「自分は自分の分を払った」「相続放棄しなかった」「単に自分の名前で申告書を出した」というだけで、潜在的に他の相続人の分まで支払う立場になります。

2. 連帯納付の限度額と税務署からの通知の流れ

連帯納付義務の金額には限度があります。各相続人が連帯納付しなければならないのは、「自分が相続または遺贈により受けた利益の価額」から「自分自身が納付済みの相続税額」を差し引いた残額が上限です(相続税法34条1項)。受けた利益の価額とは、相続した財産から債務・葬式費用を差し引いた純額です。

例えば、亡父の相続で兄と弟(自分)の2人が相続人で、兄が現金3,000万円・弟が不動産2,000万円を相続し、それぞれの相続税が兄500万円・弟300万円だったとします。弟は自分の300万円を期限内に納付済み、兄が500万円を滞納した場合、弟の連帯納付の上限は「受けた利益2,000万円-自分が納付した相続税300万円=1,700万円」です。兄の不足分500万円はこの上限の中なので、弟が全額を連帯納付する義務を負います。

通知が届くまでの流れは次のとおりです。

  • 滞納している相続人へ「督促状」を送付
  • 督促状から1か月を経過しても完納されない場合、他の相続人へ「完納されていない旨のお知らせ」を送付(情報提供の段階)
  • それでも完納されない場合、他の相続人へ「納付通知書」を送付(連帯納付義務の本格的な発動)
  • 納付通知書から2か月経過しても完納されない場合、「督促状」(連帯納付義務者宛て)が届く
  • 督促状送付から10日以内に納付されないと、財産差押えなどの滞納処分の対象になる

納付通知書を受け取ってから完納するまでの期間は、延滞税が課され続けます。令和8年(2026年)の延滞税率は、納期限の翌日から2か月以内は年2.8%、それ以降は年9.1%(特例基準割合により毎年見直し、国税庁・No.9205 延滞税について)です。延滞税は連帯納付義務者本人にも課されるため、放置するほど負担が膨らみます。

3. 5年経過すると連帯納付義務は解除される(例外あり)

連帯納付義務は無期限ではなく、平成24年度税制改正で原則として申告期限から5年で解除される仕組みに改められました(相続税法34条1項括弧書)。具体的な解除事由は次の3つです。

第一に、申告期限から5年が経過した場合。被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内が申告期限なので、相続開始から約5年10か月で原則として解除されます。第二に、滞納している相続人が延納の許可を受けた場合。延納は最長20年(不動産・同族会社株式の割合により異なる)の分割払いで、許可期間中は他の相続人の連帯納付義務が解除されます。第三に、滞納している相続人が納税猶予(事業承継税制・農地等の納税猶予)の適用を受けた場合。これらの納税猶予期間中も連帯納付義務は解除されます。

ただし、5年経過前に税務署から「連帯納付の通知書」や「督促状」を受けていた場合は、5年経過後も連帯納付義務が継続します。一度通知が届くと「履行を求めている」状態になり、解除の対象から外れるためです(国税庁・国税通則法基本通達 第8条関係)。

延納制度の具体的な要件(担保提供・延納期間最長20年・利子税の計算など)は国税庁・No.4211 相続税の延納、納付手続全般については国税庁・延納・物納申請等で公式情報を確認できます。

実務で「もう5年経ったから大丈夫」と思っても、税務署からの通知歴があると解除されないため、過去のやり取り(書面・電話)を整理しておく必要があります。書面は5年以上保管し、通知が来た時には弁護士・税理士に相談して経緯を整理するのが安全です。

4. 連帯納付通知を受け取ったときの対応

実際に税務署から「納付通知書」が届いた場合の対応手順は次のとおりです。

第一に、通知書の内容を確認します。誰が・いくら滞納していて・自分の限度額がいくらかが記載されています。記載内容と自分の認識が一致するかをチェックします。第二に、滞納している相続人と連絡を取り、納付計画を確認します。本人が延納申請中・物納申請中・分割払いの相談中なら、その経過を税務署へ確認します。延納が許可されれば連帯納付義務は解除されます。

第三に、自分が連帯納付する場合は、振込先(税務署の通知書に記載)と金額を確認して納付します。連帯納付した分は、後日、滞納していた相続人に求償(返還請求)が可能です。民法上の連帯債務の求償権の規定が準用されるため、立替えた金額に法定利息(年3%・令和2年4月以降)を付けて請求できます。ただし、実際の回収可能性は本人の資力次第です。

第四に、連帯納付を拒否したい場合の手段は限られます。連帯納付義務そのものを争うのは難しいですが、自分の納付限度額(相続で受けた利益)や、5年経過による解除の可否、延納許可の有無は争点になります。国税不服審判所への審査請求や、税務署との交渉で限度額を精査することが現実的な対応です。

5. 連帯納付義務を回避するための事前対策

相続発生「前」または「直後」にできる事前対策は5つあります。

第一に、生命保険を活用した納税資金の準備。被相続人が生命保険に加入し、相続税の納税資金として死亡保険金を残しておくと、相続人が個別に納税できる準備が整います。生命保険金は「500万円×法定相続人の数」までは非課税枠が使えるため、節税と納税資金確保を兼ねた設計が可能です(国税庁・No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金)。

第二に、相続人別の納税資金の確保。遺産分割で換金性の低い財産(不動産・自社株)に偏った相続人は、納税資金が不足しがちです。換金性の高い財産(預貯金・上場株式)を納税資金見合いで配分するか、生命保険受取人の指定で調整する設計が必要です。

第三に、遺産分割協議書での明示。「各相続人は自己の固有財産から相続税を納付し、他の相続人の相続税の納付については関与しない」旨を協議書に明記する方法はあります。ただし、これは相続人同士の内部関係(求償しやすくする効果)にとどまり、税務署に対しては効力がない点に注意が必要です。

第四に、相続発生後の早期完納。相続税の申告期限(10か月)内に全相続人が完納すれば、連帯納付義務は実質的に発動しません。延納・物納を選ぶ相続人がいる場合は、その許可状況を全相続人で共有し、連帯納付義務が解除されたことを確認します。事業承継税制の特例措置を活用する場合、特例承継計画・個人事業承継計画の提出期限は令和8年(2026年)3月31日で既に経過しています。一方、贈与・相続の実行期限は法人版が令和9年(2027年)12月31日まで、個人版が令和10年(2028年)12月31日までです(国税庁・延納・物納申請等)。すでに計画を提出済みの事業者は、実行期限内に贈与・相続を進めることで、納税猶予による長期的な連帯納付リスクの低減が可能です。

第五に、相続放棄の検討。明らかに資力のない相続人や、被相続人の債務超過が見込まれるケースでは、相続開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をすることで、相続人の地位そのものを失い、連帯納付義務も発生しません。ただし、相続放棄は相続財産を一切受け取れなくなるため、限定承認や遺産分割の組合せも視野に入れた判断が必要です。

6. まとめ

相続税の連帯納付義務の整理は次の5点です。

第一に、相続税の連帯納付義務は申告書を提出した相続人全員に自動的に発生し、自分が受けた利益から納税済みの相続税を差し引いた額が上限になります。第二に、滞納相続人への督促状送付から1か月、その後の情報提供、納付通知書、督促状の順で手続きが進みます。第三に、申告期限から5年経過、または滞納者の延納・納税猶予の許可で原則解除されますが、5年経過前に通知書を受けていると解除されません。第四に、通知を受けたら限度額の精査、滞納者の延納申請の確認、求償権の行使などの対応が必要です。第五に、事前対策としては生命保険による納税資金準備、相続人別の納税資金配分、事業承継税制の活用などが有効で、相続発生前から税理士と設計しておくのが現実的です。

複数相続人の納税状況を一括で管理し、連帯納付リスクを抑える設計は、相続専門の税理士のサポートで進めるのが安全です。

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